株式分割

こんにちは。司法書士新津孝之です。

先日、あの三菱商事が株式分割をすると発表しました。
ということで今回は株式分割の紹介です。

株式分割とは既発行の株式について株式1株を2株と定めれば、既存の発行済株式総数が100株であればそれを200株とすることです。
通常株式数が増えるときは資本金の払い込みがなされるのですが、株式分割は既存の株式が分裂して増殖するようなイメージです。そのため資本金の払い込みはありません。

株式分割により株価が低下します。100株だったときは1株100万円だったものが、50万円となります。株主としては1株あたりの株価は下がるけど、株式数が増えるので、結果として損も得もありません。

1株あたりの株価が下がるので、小規模な投資家でもその会社の株式を購入しやすくなります。結果として株取引が盛んになることで株価が上昇することもあります。

三菱商事では1株を3株とするようです。なので効力発生日(令和6年1月1日)以降は株価は3分の1になるハズです。この記事を書いている頃は1株7,000円前後なので実際は1単元が100株なので、100株単位で売買するので最低でも70万円ほどの資金が必要ですが、株式分割が実行された後はその3分の1くらいの価格になるハズです。これであれば私でも購入できそうです。東証が最低投資額を50万円程度に抑えることを推奨しているようなので、三菱商事はこれに応じたのでしょう。

このように株式分割は投資単位を小さくするために行われます。
しかし非上場の中小企業ではこのようなことにはあまり縁がないでしょう。

次は非上場の中小企業での活用方法を紹介します。

発行済株式総数100株のすべてを保有しているオーナー社長が、長男に5、次男に1、長女に1の割合で相続させる遺言を考えています。長男が後継者なのでしょう。
しかし100株だと5:1:1では割り切れないので端数が生じます。端数を切り上げたり切り捨てたりすればいいのかもしれませんが、1株あたりの純資産額が高額だと1株でも大きな差になるでしょう。大きな差は不公平な遺産相続となります。

これは発行済株式総数が7の倍数であればクリアできるのです。
株式分割により1株を7株にすれば発行済株式総数が700株となります。
これにより5:1:1とすることができます。
授権枠(発行可能株式総数)が小さければ7倍とはせずにもっと小さい数でもいいでしょう。例えば105株でも目的は達成できます。いわゆる株式分割割合は整数ではなくてもいいのです。1株を1.05株とするという株式分割もOKです。もっとも、授権枠を拡大させてしまえば7倍でも70倍でもいいのですが。

株式分割割合は割り切れる数でなくてもいいので、例えば発行済株式総数が111株の会社において「111株を130株とする」というものでもOKです。
発行済株式総数が中途半端な数な会社において、きりのいい数字とすることもできます。

ただし、株式分割割合を整数以外の数とするのは株主が1人しかいない場合にしておくべきでしょう。
仮に1株を1.5株とする割合だと保有株式数が偶数であれば無問題ですが、奇数だと端数処理が必要となります。ここで端数処理の方法を紹介します。

株主はAが30株、Bが25株、Cが15株、Dが5株です。このときに1株を1.5株とする株式分割を行うと、Aが45株、Bが37.5株、Cが22.5株、Dが7.5株になります。1株に満たない株式は存在し得ないので、B、C、Dの0.5株が端数処理の対象となります。
まず、3名の保有する0.5株を集めます。0.5株×3=1.5株
この1.5の1に満たない端数である0.5を切り捨てます。
そして残りの1株を裁判所の許可を得て売却して、その代金を3名に配ります。」

株主が1人であれば保有数が奇数であっても端数の合計が1を超えないので、「株式分割割合を整数以外の数とするのは株主が1人しかいない場合にしておくべき」とはこのような意味です。

この端数処理はかなり面倒です。会社が買い取ることもできますが、この場合でも裁判所の許可が必要です。上場企業ならまだしも非上場企業では過剰な規制のような気もしますが・・・。
なので、通常は端数が生じないようにします。

合併の際に株式を交付する場合にも合併比率によっては端数が生じます。この場合は株式分割などにより端数が生じないようにします。
株式分割は端数処理を避けるためにも行われます。株式分割により端数処理が必要となってしまうようでは本末転倒です。

このように非上場の中小企業では発行済株式総数を都合のいい数に調整するために行われます。もちろん1株あたりの株価を下げるという要請はあるでしょう。発行済株式総数が小さい割に純資産額が大きい会社のオーナー社長の事業承継や相続対策で株式分割が行われるでしょう。

ところで、株式分割と似たような制度に株式無償割当てというものがあります。
発行済株式総数100株 株主は1名という会社において1株を3株とする株式分割を行えば発行済株式総数は300株となります。株主の保有株数も300株です。

これとは別に株主に対して200株を割り当てる株式無償割当てを行えば、これまた同様に発行済株式総数は300株となります。株主の保有株数も300株です。

この2つの制度はどこが違うのでしょうか。
どちらも保有数に応じて株式が増えるのですが、株式分割は既存の株式が勝手に分裂して増殖するというイメージでいいでしょう。これに対して株式無償割当ては会社が株主に対して新たに株式を無償(ここでいう無償とは資本金の払込みなしということ)で発行するというイメージです。
具体的にはいくつも違いがあるのですが、一番の違いは割当日の有無でしょう。

株式分割では基準日を定める必要がありますが、株式無償割当てでは定める必要がありません。
株式分割は基準日時点の株主の保有株式が効力発生日に分裂増殖するのに対して、株式無償割当ては効力発生日の株主に株式が割り当てられます。

基準日を定めたときはその2週間前までに基準日を定めたことを公告するか定款に基準日に関する事項を定めなければなりません。会社法第124条です。

公告は会社が定めている公告方法で行うので通常は官報でしょうが、これは数万円程度かかります。定款に定めるというのは定款の最後のほうに附則として「●年●月●日午前12時現在の株主名簿に記載または記録された株主をもって、その所有する株式1株を10株とする株式分割により株式の割当てを受ける株主とする。効力発生日は●年●月●日とする」などと定めます。自動消滅規定を同時に設ける例もあるようです。定款変更なので株主総会特別決議が必要です。

要するに株式分割を行う場合は公告費用を負担するか株主総会を開催しなければなりません。発行済株式総数の調整のためでしかないのに数万円の公告費用は惜しいです。かといって株式分割は取締役会設置会社では取締役会で決議できるハズなのに株主総会も開催しなければならないのもバカバカしいでしょう。なので上場企業など株主総会の開催が容易ではない会社では公告費用を負担するしかないでしょう。
このように株式分割はチョット使いづらい側面があります。

一方で株式無償割当てでは基準日を定める必要はないのでこれらの問題は関係ありません。なので基準日公告も株主総会も避けるのであれば株式無償割当てのほうが優れています。

かといって株式無償割当てが絶対的に優れているわけではなく、発行可能株式総数の増加(これを伝統的には「授権枠の拡大」といいます)は株式分割であれば取締役会の決議だけでできるのに対して、株式無償割当てではこのような例外はなく株主総会決議によることになります。

整理すると

株式分割
①メリット
授権枠の拡大が取締役会決議で足りる
②デメリット
基準日を定める必要あり

株式無償割当て
①メリット
基準日定める必要なし
②デメリット
授権枠の拡大は株主総会

一方のメリットが他方のデメリットになります。
会社の実情に合わせてどちらかを選択すればいいのです。
もう少しハッキリいえば、公告掲載費と株主総会開催の費用と労力の比較といってもいいでしょう。

三菱商事は株式分割を選択しました。同社は授権枠の拡大もしなければならないので本来であれば株主総会の開催が必要ですが、これだけの規模の会社では株主総会を開催するだけでも数百万円以上はかかるでしょう。株主総会開催は避けたいところです。公告掲載費数万円で足りるので、株式分割を選択したのでしょう。

ところで今までのハナシは上場企業などの株主総会の開催が容易ではない取締役会設置会社のことです。

株主総会の開催が容易な非上場の中小企業ではこれらのメリット・デメリットを比較検討する必要はほとんどないでしょう。種類株式や自己株式なんかもないでしょうから、株式分割・株式無償割当てのどちらを選択してもほとんど弊害はないでしょう。決議省略が可能であれば1日での株式分割も可能であることが、立法当初から示唆されていました。
ただし、定款変更も基準日の2週間前までに行う必要があるという裁判例(東京高判平27・3・12金判1469・58)がでてきたことから、1日で可能ということに疑問が投げかけられています。定款変更も基準日の2週間前までに行うということは株主名簿書換の機会を確保するためであると説明されています。
仮に定款変更と基準日までの間に2週間を空けていない場合であっても、株主名簿書換ができなかった株主の損害賠償請求の問題であり、株式分割の効力が無効になるものではないという見解もあります。(Q&A商業登記と会社法 134頁)
それでも不安であれば、株式無償割当てを選択すべきでしょう。

このように株式分割や株式無償割当ては株式の数の調整のために行うものです。
株式の数を調整するのであれば、本来的な制度である増資でもできます。

発行済株式総数97株、資本金100万円、株主は1名、という非取締役会設置会社で株式数をきりのいい数字である100株にしたい。
株式分割であれば97株を100株とする割合で行えばOK。
株式無償割当ては3株を割り当てるとする内容でOK。
もちろん、基準日設定、授権枠拡大、株主複数の場合の端数処理の問題はありますが。

募集株式の発行(いわゆる増資)でも可能です。
3株を新たに発行することになります。増資なので払込みが必要です。この場合の払込金額はいくらでもいいので、1株につき1円でもOKです。もちろんこれらの募集事項について株主総会特別決議が得られるということが前提です。

ただし、これだと発行済株式総数は100株になりますが、「資本金の額 100万3円」というきりの良くない数字で登記されてしまいます。

登記記録に記載される資本金の額は貸借対照表のように単位を(万円)とすることはできないので、このような記載は仕方のないことです。また、資本準備金とすることができるのは払込金額の半分までです。

払込金額を1株につき34万円とし、そのうち100万円を資本金、2万円を資本準備金とすれば、発行済株式総数100株 資本金の額 200万円となり、いずれもキリのいい数字となります。

資本準備金を計上したくなければ、払込金額とは募集株式1株と引換に払い込む金銭のことですがこれを、「100万円を3で除した数」とすればいいでしょう。算定方法でもいいのです。

発行済株式総数の調整のためだけに増資をするべきだろうかという疑問はあります。なるべく費用や時間をかけない方法を検討すべきでしょう。

今回は三菱商事の株式分割のニュースをきっかけに展開してみました。
紙面の都合上カットしましたが、発行済株式総数の調整方法には株式併合も考えられるでしょう。

株式分割、株式無償割当て、株式併合をご検討の際は当事務所をご用命下さい。

では。

 

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