相続登記義務化とその対策2
前回からの続き
それでは相続登記ができないような人はどうすればいいのでしょうか。
3 対策
①本当に過料が科されるか
改正法によれば「正当な理由」がなく相続登記を怠っている場合に10万円以下の過料を科すとしています。
相続人が多すぎるということが直ちに「正当な理由」となるかは分かりません。これをすべて許すと義務化の意味がなくなってしまうからです。
しかし、改正法の解説によれば、当局が相続人に過料を科す前に相続登記をすることを促すことが予定されているようで、この過程で当局が相続登記の申請が実現可能か否かをある程度把握するハズです。相続人多数などの場合にも直ちに過料が科されるということはあまり多くはないと思われます。当局も無理なことは理解しているはずです。相続登記が事実上難しようであれば、次の相続人申告登記を勧めることも考えられます。
また、当局はすべての不動産について相続登記がされているかについては把握していません。確かに7,80年以上前に所有権移転登記がなされ、それ以降何の登記もされていなければ相続登記がなされていない可能性が高く、こういった不動産を中心に一つ一つ相続人の調査を進めているようです。しかしすべての不動産について把握することは不可能でしょう。数が多すぎます。
したがって、必ずしも改正法施行後3年を経過して直ちに過料が科されるということはあまりないでしょう。
とはいってもこれは過料の手続が遅延しているだけであり、義務を履行したことにはなりません。
②法定相続
相続登記は基本的には遺産分割協議を行い、不動産を承継する相続人1人を決めます。
しかしこれには限られず、相続人全員を各相続人の持分での登記名義人とすることもあります。これを法定相続登記といいます。各相続人の相続割合に従った内容である限り、これは相続人の1人からの申請で登記されます。
つまり法定相続登記は相続人がどれほど多くてもそのうちの1人からの申請によって行うことができ、これにより相続登記義務を履行したことになります。
法定相続登記は他の相続人の同意などは不要であることから、相続人の数が多くてしかも連絡が取れないという場合にも相続登記義務を履行することができます。
ただし、現在の登記名義人から相続人全員までの戸籍謄本を用意する必要があることから、登記名義人が数代前の祖先だとその数は数十通以上にもなることもあります。
また、民法の相続に関する規定は幾度の改正を経ています。登記名義人が亡くなった時期によっては法定相続分が現在のものと異なる可能性もあります。これは旧法相続といって、司法書士の世界でもかなり難易度の高い登記の部類です。
③相続人申告登記
法定相続登記は他の相続人の同意や協力なくして登記申請ができますが、準備する戸籍謄本の数は膨大なものになりがちだし、登録免許税は登記申請をする相続人が負担します。
これはこれでいいのですが、もう少し簡単な方法があります。それが相続人申告登記です。
相続人申告登記とは端的にいえば、「現在の登記名義人は既に死亡していて、わたしはその相続人である」と法務局に申し出ることです。
法定相続とは異なり、現在の登記名義人から相続人全員までの戸籍謄本を用意する必要がなく、登記名義人と申出者との相続関係だけを示せば足ります。これであれば、登記名義人は数代前の先祖でも用意する戸籍謄本は数通程度でしょう。しかも登録免許税は課されません。
ただし、登記記録には相続人申告登記がなされた旨が記録されるようですが、相続人申告登記は相続登記ではないので申出をした者は登記名義人とはなりません。登記名義人と扱われるためには遺産分割協議をするか法定相続による必要があります。
相続人申告登記では相続登記をしたこととはなりません。あくまでも過料を免れることが効果です。つまり根本的な解決にはなっていません。
ですが、相続人の数が多すぎて遺産分割協議などほぼ不可能だし、多額の費用と労力をかけて遺産分割審判(裁判)をするつもりもないし、法定相続は1人でもやろうと思えばできるものですが、実際には膨大な戸籍謄本を集める気力も能力もない、というときには相続人申告登記はその場しのぎといえばそれまでですが、検討の価値は十分あります。
相続人申告登記は概要だけが決まっているのみで、詳細は改正法施行直前(令和6年3月頃)に決まるハズです。
④相続分譲渡
相続人はあなたを含めて10人いて、各自の持分は10分の1。数名とは連絡が取れて、しかもあまり大した価値のある不動産ではないので、あなたが相続することに異存はない。しかし残りの相続人は連絡が取れないことからその意向は分からないというケースで使える方法です。
相続人はあなた、A、B、C、D、E、F、G、H、Iで相続人のうちA、B、C、D、E、Fはあなたが相続することに賛成しています。
この場合にあなたがA、B、C、D、E、Fから各自の10分の1というその相続分そのものを譲り受けることができます。そうするとあなたは自身の相続分と譲り受けた6名の相続分の合計10分の7を有することになります。
そうすれば、あなたが10分の7、Gが10分の1、Hが10分の1、Iが10分の1という登記申請をあなただけですることができます。遺産分割協議を経た相続登記と法定相続の中間のようなものです。部分的な遺産分割です。
この方法も最終的な解決ではありませんが、今後の複雑な枝分かれを防ぐことができます。少なくても相続分の譲渡を受けたA、B、C、D、E、Fの子孫は登場しなくなります。最終的な解決は次の世代に委ねることになりますが、その準備として少しでも解決しやすい環境を整えるという効果があります。
最終的な解決とはならないことから、あまり提唱する人は多くはありませんが、これも十分検討の余地はあります。「弁護士五右衛門」という人の「限定相続の実務」という本でもこの方法を推奨しています。かなり変わったペンネームの著者ですが内容はしかっりとしていて実務家必携です。
相続分の譲渡なので、譲渡した相続人は遺産に対する一切の権利を失います。他に預貯金等があればそれも相続できなくなります。こういった場合は慎重な対応が求められるので、
相続分譲渡の対価を無償ではなく有償とすることも検討すべきでしょう。
また、一旦法定相続を行って、その後の持分移転でもいいでしょう。これは二度手間ですが、他にも有用な遺産がある場合にはこの方法でもいいでしょう。
最後に。
紹介した対策はいずれも最終的な解決ではありません。いずれも相続登記の義務化や過料を免れることが主目的です。
相続登記義務化は確かにとんでもない制度ですが、だからといって放置するわけにはいきません。いずれは誰かがやるべきことです。
また、相続登記はできるときにやっておくべきです。相続人の数も少ないからいつでもいいと思っていると、思わぬタイミングで他の相続人が死亡したり、認知症に罹患して遺産分割協議ができなくなることもあります。特に障害となることがなければ今すぐにやっておくべきです。
当事務所では相続登記のご依頼はもちろん承っておりますが、遺産分割協議ができないような場合でも上記の対策方法のうちもっとも有用な方法のご提案も行っております。
相談のみでも承っておりますので、お気軽にお問い合わせください。
それでは最後までお読みいただきありがとうございます。