定款認証

こんにちは。司法書士新津孝之です。

今回はいつも以上に私見だらけです。あくまでも一意見ということでお読みください。

 

みなさんは、行政事業レビューというものをご存じでしょうか。いままであまり関心がなかったのですが、民主党政権時代の事業仕分けというのは少しだけ記憶にあります。

 

各省庁がそれぞれ抱えている問題についてその是非や存非について外部の有識者を交えた公開討論のようなものと考えればいいでしょう。

 

令和5年11月11日に令和5年度秋のレビューがありました。公証人による定款認証が議題となるということで気になっていたのですが、当日は所要のためライブ中継を見ることができなかったのですが、今はニコ動で配信されています。

 

会社設立時の定款認証については必要派・不要派双方があります。私もそうですが、司法書士の多くは不要派だと思います。

 

不要派の論拠は

(1)設立に時間がかかる要因の一つである

(2)代理人による認証では公証人と発起人が直接面談する機会がほぼない

(3)合同会社では不要

 

必要派の論拠は

(1)発起人が誰であるのかを確定し、その責任の所在を明らかにする

(2)株式会社と合同会社は会社の位置づけが根本から異なる

 

といったところです。不要の論拠にはなり得ませんが、認証手数料が高すぎるというのもありました。

 

必要派(法務省のお役人様)が言うところは、幅広く出資を募る株式会社では設立登記がされるまでの間に集められたお金を管理する者(=発起人)がどこの誰であるかは定款認証により確定する=責任の所在が明らかになり、もって出資者の保護が図られるのである。だから定款認証は必要である。一方で合同会社は幅広く出資を募るようなことはないから定款認証はなくても無問題である。ということのようです

 

ベンチャー企業などが設立の段階から幅広く出資を募るのでその出資者の保護を図る必要性というのはどの程度あるのかは不明です。不要派も言っていましたが、極々一部のために全体に定款認証という関門を設けるのは如何なものかと思います。

発起人は定款認証で確定するわけではありません。公証人が定款認証をしたところで、それは私証書の認証であって、絶対に必要な手続ではないでしょう。発起人の定款作成の意思は登記官が確認するような法制度とすればいいでしょう。まるで公証人と登記官とで手分けしているようであり、これが会社設立に時間がかかる原因であるという指摘は昔からありました。

また、合同会社でも幅広く出資を募ることはできるでしょう。投資目的で(合同会社の社員となる)出資を募り、多くの資金を集めた合同会社が破綻したという事件があったような気がします。合同会社だから不要ということにはなりません。それでも合同会社では定款認証は不要です。そうであれば株式会社でも不要でいいだろう、というのが反対派の論拠です。

まぁ、これだと合同会社でも定款認証必要ということになってしまうでしょう。

 

ところで。

不要派の「定款認証が起業促進を妨げている」という指摘については、何か根拠となるような調査結果などがあるのでしょうか。国際競争力云々とも言っていますが、定款認証があるから日本での設立を断念した外資がどれほどあるのでしょうか。

起業促進というのであれば、まずは設立登記の「登録免許税15万円」を何とかすべきでしょう。これは高い、高すぎる。これは全くといっていいほど議論されていませんでした。

まぁ、「税収」ですからそう簡単に下げるということはできないんでしょうが・・・。

 

デジタル化推進も兼任している行革担当大臣も参加していました。同大臣は定款認証がデジタル化の妨げというようなこと言っていましたが、これはチョット理解ができませんでした。確かに電子定款を作成しても登記申請では紙媒体なので、とてもアナログな感じがしますが、だったら認証手続から登記申請までをデジタルで行えばいいので、定款認証不要の理由にはならないのではないでしょうか。

 

結局のところ、どちらも決め手を欠くという印象です。

 

この行革担当大臣は定款認証などの公証人の業務の見直しに言及していました。

ただし、法務省はうんともすんとも言っていないので、現時点で定款認証不要の法改正が予定されているとはいえないでしょう。

 

そういえば、ここ数年の間に定款認証の手続はいくつかの変更があります。

ⅰ 認証手続がズーム等のテレビ電話でもできるようになった

ⅱ 実質的支配者の申告

ⅲ 認証手数料の引き下げ

ⅳ ワンストップサービス化

 

これらの変更は以前からズーッとあった必要論・不要論の痛み分けという感じがします。

 

ⅰ テレビ電話での認証

設立予定地の公証人の認証が必要というのはナンセンスだから、定款認証自体を廃止せよという声に対して、ズーム等のテレビ電話でもできるようにした。

 

ⅱ 実質的支配者の申告

定款認証の際に公証人に実質的支配者を申告することでファトフの対策とした。よって定款認証は必要な手続である。(という必要派のアピール?)

 

ⅲ 認証手数料の引き下げ

認証手数料が高すぎるという声に対して認証手数料を引き下げた。

 

ⅳ ワンストップサービス化

公証役場での定款認証→法務局での登記申請と二段階でやっているから、会社設立に時間がかかるという声に対してワンストップサービス化が導入されました。もっとも、どの程度活用されているのかは疑問ですが。

 

このように定款認証不要・廃止論に対して、折衷案的な新制度が導入されているような気がします。

ということは今回の見直し論を受けて、近い将来に何らかの新制度が導入されるのかもしれません。

 

では。

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